


れんは両手をぐいっと大きく広げました。手の中はからっぽで、風がすうすう通りぬけます。それでも谷ぜんぶが、ぽうっとあたたかいのです。れんは空を見上げて、にっこりしました。「みんなで 照らすから、こんなにあたたかいんだね」
世界にただ一冊。ずっとあなたのもの。
Lumora の絵本
れんのための一冊
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ランタンはふわりとうき、れんの手からすうっとはなれていきました。風がひとつ、くるりと回して空へ運びます。千のあかりのうずに、ぽとん、と仲間入りです。谷の夜空が、ひときわ明るく光りました。


れんは指にぐるぐる巻いていたひもを、くるん、くるんとほどいていきます。指はちょっとだけ、ひものあとでしわしわです。「ぼくのあかりも、みんなのところへ いっておいで」れんはそっと手をひらきました。


れんは、上着の中でくすぶった、あのけむりを思い出しました。「ぎゅっと かくしていたときは、けむりが出ちゃった」れんは言いました。「あかりは ひとりで かかえこむものじゃないんだ」れんのむねが、すっと軽くなりました。


「谷ぜんぶが、こんなにあたたかい……」れんはぽかんと口を開けたまま、かわらの上に座りこみました。谷じゅうがぼうっと明るく、まるくともっています。それから、はっと自分の手の中を見ました。そこには、ぽつんと一つだけのランタンが、少し照れたように光っていました。


とうとう千のランタンが、いっせいに夜空へまい上がりました。谷じゅうのやねから、ふわり、ふわりと止まりません。れんはやねの上で立ちすくみ、口をぽかんと開けたままです。月あかりと数えきれないあかりだけが、谷ぜんたいをやさしく包んでいました。


ちょうどそのとき、谷の底で、ぽつり、とあかりがひとつうかびました。れんは思わず、ひもを巻いていた指を止めます。ぽつり、ぽつり、と続いて、あかりは一つ、二つ、十、百……。まるで町じゅうが、れんの問いに答えているみたいでした。


れんはひもを指にぐるぐる巻きつけて、それから、また少しほどきました。やねの上は静かで、聞こえるのは自分の息だけです。れんは夜空にむかって、ぽつりと聞きました。「どうして あかりは ひとつじゃ くらいのかな?」


かわらのてっぺんに、れんはやっと足をつきました。谷ぜんぶが、こい青色のやみにすっぽりつつまれていきます。ランタンはひとつぶんの光しかなく、地面はもう見えません。「ぼくのあかりだけじゃ、自分の足もとしか見えないや」れんはつぶやきました。


石のかげも、なんだかどろぼうみたいな顔をしています。れんはランタンをぎゅっとにぎりなおしました。「ここじゃ だめだ。もっと 高いところ」石だんのてっぺん、いちばん大きなやねを目ざして、れんは息を切らしてかけ出しました。


「けむりがでちゃう!」れんは大あわてで上着を開きました。あかりはこほんと一つせきをして、また元気にともります。それでも手ばなすのがおしくて、れんは石だんのわきにある小さな石のおやしろに、そっとしゃがみこみました。


「風にあげたりしないぞ」れんは上着のすそをぐいっとつまみ、ランタンをその中にぐっとおしこみました。ふうっと風がやみ、あたりは静かになりましたが、上着の中はもう別の話です。とじこめられた火はもごもごとふきげんそうにくすぶり、小さなけむりがひとすじ、れんの首すじをくすぐりました。


れんはランタンのひもを手さげにして、だれもいない町はずれの石だんをこっそり登っていきます。だれかに見つかったら、分けてと言われるかもしれません。ふうっと夜風がふきぬけて、ランタンをひょいと空へさらおうとします。れんは手をぎゅっと引きよせ、ひもをかたくにぎりしめました。


町のあちこちに、あかりがぽつん、ぽつんとともり始めました。れんは自分で作った紙のランタンを、両手でぎゅうっとだきしめています。のりもしわくちゃ、字もにじんでいるけれど、世界でいちばん上手にできたランタンです。「だれにも あげない。ぼくだけの あかりだもん」

れんへ
Lumora の絵本
れんのための一冊



